SCENE12 看護管理者は企画提案力も求められる 論理的プレゼンがポイント

 近年、病院の管理職にスタッフに求められていることは、企画力である。病院経営の複雑化により、病院内に経営企画部門を設置することで、新たなマーケットの創造や病院内のコミュニケーションをよくし、横串を刺そうとしている。今後の病院経営に求められることは、幅広い視点で患者や地域住民のニーズを拾い上げ、病院内の体制を整えなければならないことである。

 さて、企画力とは、何であろうか。病院において企画力とは、企画から実行までのこととである。企画や計画を作り、関係者を納得させ、実行することである。企画、プレゼンテーション、実行の3つが全て整って初めて、病院ではすばらしい企画と認められることになる。すばらしい企画を提案しても実行まできちんとされなければ、医療現場では認められない。そんな企画力の向上について考えたい。

 奈須は、石崎と管理者向けのセミナーを聞きに来ている。奈須と石崎は、企画力を上げるように看護部長と事務部長からお題を与えられていた。そこで、隣町の病院の企画室長である大木の講演を聞きに来たのである。大木は、隣町の病院の経営を立て直した伝説の人物である。セミナーには、病院の事務だけでなく、看護管理者やコメディカルの管理者も数多くセミナーに参加しているようだ。やはり管理職には、企画力が必要なのかと感じた。

奈須:石崎君、看護管理者っぽい人も多いね。

石崎:そうだね。最近、どこの病院も会議で、収入があがる企画や業務改善の企画を提案するように言われてるみたいだからね。

奈須:医療従事者が医療に専念できない環境というのは、ちょっとおかしい気がするけどね。

石崎:そうだね。国が医療に効率を求めるようになってから、病院経営も変な方向に行っているよね。そうは言っても、われわれも企画力を磨くように指示されセミナーに来ているわけだし、沢山知識を持って帰ろうよ。

奈須:がんばりましょう。

―セミナーが始まり

大木:本日は、皆さんは、企画力を磨くためのセミナーにお越しいただいています。さて、企画力とは、何でしょうか?病院に求められる企画とは、宝くじが当たったような劇的な改革や改善が起きるような企画ではありません。日々の医療現場の活動において医療の質が向上したり、安全になったり、効率的になったりといったことなのです。その医療の質の向上したりするために、企画ということが重要になるのです。さて、皆さんに質問です。企画というとどんなことを思い浮かべるでしょうか?

―大木は、会場に質問(質問1)をした。

質問1 
あなたが考える企画に対するイメージを述べよ。

奈須:いきなり質問とは、面食うわね。

石崎:企画とは、何だろう。考えたことないな。

奈須:経営企画室から出される提案?

石崎:ビジネスモデル?

奈須:何それ?

石崎:ビジネスモデルって、ビジネスの仕組み、商売の仕組みだよ。どうやって、商売を立ち上げ、儲けるかのしくみだよ。そんなことはいいとして、企画って、企画書といった綿密な計画書があるものかな?

―大木が説明を始める。

大木:さて、皆さん、企画に対して様々なイメージをお持ちだと思います。企画といえば、計画書という書類の束や綿密な計画といったことがあります。病院における企画とは、(図14)のように、①企画(計画)、②実行、③検証、④改善の全ての過程を指します。一般的には、このプロセスの①の部分が企画と考えられていますが、病院の現場からは、認められません。皆さんもいかがでしょうか?例えば、企画書を読まされ、これをやろうと言われたとしたらどうでしょか?反発しますよね。病院では、実行まで行いきちんと最後まで責任を持つことで優秀な企画とみなされます。これがコンサルタントと違うわけです。ちなみに、コンサルタントの善し悪しがよく議論されますが、コンサルタントは企画の企画書を提出することで仕事が終了します。しかし、病院側は企画を実行し結果が出ることころまでコンサルタントが面倒を見てくれると思っているため、コンサルタントに対して失望することが多いのです。コンサルタントの評判が悪くなる時は、お互いの認識の違いによるところが多いと言えます。

 一方、病院の経営企画室に求められることは、企画から結果を出すところまでです。①企画、②実行、③検証、④改善を行い、結果が出さなければなりません。これは、皆さんも同様で、「企画を作りました。実行できませんでした。結果が出ませんでした。」では、スタッフから信用がなくなりませんか?経営企画室は、企画の全てにおいて、よい結果を出さなければなりません。そういう意味では、企画とはつらい仕事かもしれません。

―大木が企画について、説明を続ける。

大木:(図15)の①の企画について説明します。企画は何となく作るわけでありません。企画は、これから行うことすべてに左右するため、綿密に作らなければなりません。企画とは、仮説といわれる「こうしたら良くなるだろう」「こうしたら効率がよくなるだろう」という「だろう」なのです。この仮説について裏付けをとるために、調査という検証を行い証明します。この調査から仮説を「だろう」から計画という「調査の結果からこうすべきである」にします。例えば、「外来を予約診療にすれば患者が増える」と仮説を立てます。アンケート調査で、病院へ来院することをためらう人が多いという結果が出たとします。そうすると予約診療による患者の待ち時間の減少が、患者増へつながる可能性が出てきます。そこから、予約診療を行うための計画が作られます。このように、計画が綿密に作られるのです。ここで、仮説の検証を行うために利用できる資料としては、アンケートや自治体が公表している統計、他病院の事例などです。

 続いて、②実行(図16)について説明します。企画を実行するには、企画や計画を説明し納得してもらいます。説明しただけで組織や人が動くことは無いので、個別に指導したり、部門間などの調整を行います。企画の成否を分けるのは、この実行の部分にあります。企画を成功させるためには、わかりやすい説明、情熱的な指導、調整に配慮しなければなりません。実行の部分は、他者を巻き込み、いかに自発的に動いてもらえるかにかかっています。

 ③検証(図17)では、患者や職員、病院経営の視点で、調査しなければなりません。アンケートや聞き取り調査といった調査を、定量的な視点と定性的な視点で客観的に行わなければなりません。検証をきちんと行わなければ、企画は自己満足になってしまいます。

 ④改善は、検証した結果、課題となった部分を改善することになります。この改善により、企画の結果はより良いものとなります。

 さて、皆さんもこの説明を聞いて企画もPDCAだということに気付いたのではないでしょうか。それでは、10分ほど休憩をしてから、企画力を上げるためのエッセンスについて説明します。

―休憩を挟んで

大木:それでは、始めます。企画力を上げるためのエッセンスは、「①PDCAの癖をつけること」「②幅広い知識をつけること」「③感性を磨くこと」「④プレゼンテーション能力をあげること」この4つです。企画は、PDCAです。だから、常日頃、PDCAを心がけていることで必然と論理的になり、行き当たりばったりの判断をしなくなります。企画は、失敗しない企画を作ることで皆さんがスタッフから信頼を得て行きます。そのためには、思いつきベースでの企画は避けなければならないのです。次に、幅広い知識は、皆さんの企画に幅と深みをもたらします。例えば、DPCを導入するという企画を立てた時に、医療現場を知らない、診療報酬について知らない、クリティカルパスって何?、病院経営も知らないといった場合は、とてもいい企画ができるとは思いません。逆に、これらを知っていることで、DPCの導入に一番いいポイントがわかり、最大限の効果を発揮できる企画を作ることができます。何よりも感性を磨くことが大切で、幅広い知識をすばらしい有機的なつながりをつくります。すばらしい感性は、普通では思いつかないような企画へとつながります。そのためには、良い物に触れ感性を磨くことです。よい物とは、教養を深めることです。茶道や華道などは、感性を磨くのによいと思われます。

奈須:そう言えば、有名な看護管理者の中には、茶道や華道などの作法を学んでいる人が多いと聞くわ。

石崎:へー、和の心やおもてなしの心が看護管理にもつながるのかな。

大木:いいですか、もう一度繰り返しますが、企画力を上げるためのエッセンスは、次の4つです。①PDCAの癖をつけること、②幅広い知識をつけること、③感性を磨くこと、④プレゼンテーション能力を上げること。

 では、最後に、プレゼンテーション能力をあげることについてです。企画を作り、関係者に説明をするところで、素晴らしいプレゼンテーションには人を動かす力があります。皆さんも感動する話を聞いた後などは、やる気が出たりしませんか?プレゼンテーションを聞いた人が納得した時点で、企画の実行は成功へと大幅に前進します。最悪なのは、プレゼンテーションが失敗し、疑心暗鬼で企画が実行されていくことなのです。疑心暗鬼は誤解を招き、企画が成功することはなくなるでしょう。みんなを納得させるプレゼンテーションに気をつければいいのです。本日のセミナーは、これで終わりにしたいと思います。

―質問コーナーで

大木:本日の内容で質問はありますか?

奈須:プレゼンテーションのコツを教えてください。

大木:よい質問ですね。では、プレゼンテーションのコツについて説明します。よいプレゼンテーションとは、目的がはっきりとしている。話の筋道がしっかりとしている。内容が一貫しているということです。パワーポイントを使って、プレゼンする場合が多いと思いますが、その時のポイントは、話をする内容を箇条書きにし、字を大きく少なくすることです。プレゼンテーションは、話の筋道をしっかりとし、「自分が伝えたいこと」と「皆が知りたいだろうと思うこと」を気にしながら内容を作るとうまく伝わります。

大木:他に、質問ありますか?

石崎:プレゼンテーションの部分で、「皆が知りたいであろうと思うこと」とありますが、どのように察知すればいいでしょうか?

大木:簡単に言うと、企画の背景にあることで、皆が知らないであろうと思われることです。看護部やコメディカルの部門に説明すると、より理解が進むといったことです。逆に、何も説明しないとなぜそうなっているのか分からず誤解を生じることがあります。よいプレゼンテーションは、話を聞くと「腑に落ちる」感覚があるものです。

石崎:ありがとうございました。

 企画とは、企画書を作って終わりではありません。病院では立案した企画を必ず実行し、結果を出してこそ評価されるものです。実は、金融業など他業種から病院に入ってきた経営企画室の人材がうまくいかないのはこのためでもあります。本当は、一番病院を分かっている人が経営企画室にいなければならないのです。一方で、現場でも企画を作ることが強要される時代であるため、企画を作り実行しなければならないのです。より良い現場を作ることは、まさに企画と言えるでしょう。これから管理者の企画力が試される時代なのです。